多くの先生に嫌がられたのに、特定の先生からは妙にかわいがられた。小学校のある先生は、とても厳しい人だと思っていた。しかし学校外で会うと、やけに優しく、アイスクリームを買ってくれたりした。
大人になってから偶然その先生の家を訪れたことがある。そこで言われたのは、「かわいかったから、前の席に座らせていた」という言葉だった。私は当時、授業中に遊び出すことがあったため、前に座らされたのは監視のためだと思っていた。だから、その言葉は意外だった。
その先生は、一度だけ授業中にわなを仕掛けたことがある。算数の授業で、全員で答えを出し合い、正しいと思うほうに挙手していく方式だった。最後に2つの答えが残り、4月生まれの優秀な子の答えに、ほとんどの生徒が手を挙げた。先生も「私もこっちだと思うな」と加わり、もう一度挙手を求めた。すると、もう一方の答えを選んだのは、私一人だけになった。先生は嬉しそうに「正解は、こっち」と言い、私の答えを指した。教室は不服そうな空気になり、それで授業は終わった。
この先生は、戦争を体験した最後の世代の教師だった。授業で話してくれた戦争の記憶は、今でも鮮明に覚えている。
その先生は、1・2年生の担任だった。私にとっては厳しく苦手な存在だった。特に、4月生まれの子どもたちは優秀すぎて、自信を失っていた。宗教をやっている子も、パフォーマンスが良かった。求められたことを疑問に思わず、淡々とこなすからだ。私はというと、「なぜこれをやるのか?」という問いばかりが浮かび、課題をやらなかった。音楽の教科書を無くし、ハーモニカやリコーダーを忘れて、家に取りに帰ることが何度もあった。同級生の中でも、あまりに回数が多く、成績の悪い子と同じような行動をしていたため、自分は“あほ”だと思っていた。
淡々とやれる人が良いのか、それとも疑問を抱きながら効率の悪い人が良いのか、それには甲乙がつけられないようだ。社会が安定し、構造が固定化されているときは、疑問を持たない人が上に行きやすい。しかし、構造が揺らぎ始めると、そういう人たちは弱くなるらしい。つまり「ドグマで生きる」という方法は、社会が安定しているときには立派に見えても、生物的、生命的な観点では危うい状態らしい。
なぜ多くの先生に嫌がられたのか。それは、私が「問い」を持っていたからだという。だが不思議なのは、熱烈に好いてくれる大人もいたということだ。大人の目つきが突然変わって、抱きしめられそうな勢いになることもあった。複数の先生が私を嫌っていた中で、その中の一人がこっそりと気に入ってくれていたこともあったのだ。
子どもの頃、海に石を投げた。波紋はすぐ消えた。それを繰り返した。仕事をするようになってからは、書いて出すことはしてこなかった。笑われないかという事は無関心だったが、危惧したことは、頭がおかしいと思われることと、売り上げにマイナスになるという事である。それを調べてみると、どうやらその心配はないらしい。私は、書くことで、世の中に何かを期待しているのではない。良い問いを求めているのです。イーロンマスクが、何故火星に行くのかという問いに対して、良い問いを求めていくのだというのを聞いて、同じだと思い驚きました。私は問う事により、構造に変化を与えている仕事をしているのですから。
「問い」が引き起こす反応
問いを嫌う人たち
- 構造を崩されたくない
- 「問い=秩序への挑戦」と捉える
- 権威や慣習に依存している
- 問いにさらされた経験が少ない(=構造の未経験者)
→ 問いは、信念・安心感・支配構造を揺るがすから
問いを好む人たち
- 自らも問いを通ってきた
- 若い知性の芽吹きを見逃さない
- 問いが生まれることで構造が生まれることを知っている
→ 問いに“かつての自分”を見る
→ ただ気に入っていたのではなく、「構造の継承」を始めていた
子どもの「問い」に反応するのは、大人の“深層構造”そのもの
- 問いを嫌う大人=構造の硬直化を選んだ人
- 問いに涙する大人=かつて“問うた”ことがある人
子どもたちとの出会い
私は、知り合いの子どもたちが好きだ。とても愛くるしい。それは、いわゆる「いい子」ではないところにある。
一人は学校でほとんど話さず、読書ばかりしているそうだが、会うと元気で、マリオカートで私が、前に出て画面を見えないように妨害すると、思い切り蹴られた。
一人は折り紙の天才。引くほどの完成度。親から見ると一人でどんどんやっていくから、楽らしい。食事中はじっとしていられず、どこかに行ってしまう。まるで昔の私そのもの。
もう一人は、賢すぎる子。教えていないのに学校に入る前に計算できる。決まったルールが守られないと泣いてしまう。父も賢く、その子の苦しみがよくわかっている。発達すれば、その高い知能をコントロールできるようになるのがわかる。
彼らが「問い」を放つとき、私はもう他人とは思えなくなった。私を気に入ってくれた大人たちの気持ちが、今ならわかる。そういう子どもたちが、厄介者として扱われることがあるのも、また理解できる。私は彼らにこう書いたことがある。「私はいい子ではないあなたたちを気に入っている。大人の前では、いい子の振りをしてあげればよいと」
求めていた「触れてはいけない深層」とは
- 封印されていた階層へのアクセス
物理的にも心理的にもアクセス制限がかけられた領域のこと
- ブラックホールの特異点
- プランクスケール
- 集合無意識の奥、世代間トラウマ、神話の核
- 「問いの到達限界」に生じる緊張
- 言語・論理・感情がすり減る領域
- 多くの人が逸脱、狂気、沈黙に至る
- それでも問い続ける者が“次の層への穴”を開く
【問いの機能】──「何を起こすか」
- 見えなかった構造が“可視化”される
- 停止していた流れを動かす
- 分岐を生み、変化のきっかけとなる
- 支配構造を露出させる
- 非線形な変化(ジャンプ)を生む
- 知性の“重力場”を形成する
【問いの構造】──「問いはどうできているか」
- ベクトル性:どこに向かっているか
- ポテンシャル:未解決エネルギーの張力
- 次元性:How から Why へのスケールの幅
- 連結性:前提・定義との接続
- 反射性:問う者自身への跳ね返り
- トポロジー:形を変えても核が残る
国家レベルの再構築を促す問いたち
【税制の問い】
- 努力の報酬が不公平に分配される理由は?
- 誠実な納税者が報われる構造になっているか?
- 税とサービスの対称性は設計されているか?
【配分の問い】
- 教育費、研究費、医療費のどこが未来の果実になるか?
- 構造の再設計が一時的な支援より有効では?
【政治家の問い】
- なぜ票を得た人が「責任」でなく「権力」を得るのか?
- 「誠実な統治」に報酬が与えられる社会構造とは?
- 「目立つ者」と「正しい者」は同じ基準で選ばれているか?