過酸化水素水や過炭酸Naから発生する酸素分子は、普通に吸っている酸素分子とは違っていて、強力な酸化力を持っています。
ですので、あの酸素は今吸っている酸素とは区別しておくと、良いと思います。発生させてもいいけれど、それを大量に発生させて吸うとか、近くにいるとかいうのは、やめた方がいいわけです。しかし、反応性が高いので、ほっておくと、そこらへんの有機物などを酸化させて無くなってしまいます。故意に吸うのはやめた方がいいです。
(もし一重項酸素を思い切り吸い込むと、肺はダメになってしまうそうです)
分子軌道法での反結合性のπ軌道への電子の格納のされ方で、性質が変わるので区別した呼び方が与えられている。普通に吸っている酸素分子は基底状態という酸素分子としては最も安定している状態で、三重項酸素という。過酸化水素水や過炭酸Naから酸素を発生させた場合は、先のより電子が不安定な格納のされ方をしている反応性の高い一重項酸素という酸素が発生しているので、普通の酸素を発生させているとは思わない方がいいです。
「一重項酸素」とウィキペディアなどで調べると、分子軌道ダイヤグラムというものが出てきます。基底状態の三重項酸素は対にならないスピンが二つあって、同じ方向になっているのが確認できます。電子のスピンは↑や↓で表されています。矢印が、上と下とが同じ数だと磁石にくっつかず、矢印が上向きだけが多いと磁石にくっつきます。つまり、普通に吸っている酸素分子は磁性があります。一重項酸素は上向きのスピンと下向きのスピンの数が同じなので、磁性が無くなります。普通の酸素は磁石にくっつきますが、酸化力の強い酸素は磁石につきません。具体的に磁性を持たせる持たせないは、あらかじめどのような分子を作るかで設計が出来ます。
余談 実験室は危ない
とある先生は実験室で、「アワが発生していたら、とにかく逃げろ」と説明していました。酸素の発生させる実験は「あんなの恐くて絶対やりたくない」と言っていました。
不活性ガスでも、ひと呼吸で意識を失いますので、片づけるな!とにかくそのままでいいから逃げろ!と言います。勉強できる人でも、知識で知っておかないと、不活性ガスなら無害だから、のんびり逃げて大丈夫だと勘違いしがちです。私も昔はそう思っていました。例えば窒素でも、ヘリウムでも、危険です。
ガラス器具の洗浄にフッ酸を使うぐらいなら捨ててくださいという優しい先生もいます。そこそこ高くてもそうした方がいいと思います。大企業の同級生は、フッ酸を使うのをものすごく嫌がります。別の会社ですが、その怖さを知らない方達がアルバイトで建屋に入って仕事している場合があるそうです。時間制限は厳しく管理されていると聞きました。
40代以上は三国均先生の化学の参考書を使った方が多いと思います。三国先生は学生時代の実験で、硫化水素を発生させて、それをうっかり吸ってしまった学生が倒れて、ガラスで切って血を出してしまったそうです。それをみて、ほかの学生が貧血になって倒れてしまったという笑い話をしていました。
化学実験は命がけです。とある先生は私に何度も言いました。「無機化学の教授は定年前に死んじゃうんだよね」先生は、学生に「見るな」と言い、後ろでリチウムをハンマーでガンガン叩いたりしていました。「リチウムは精神を安定させる効果があるそうだけど、別に優しくなった気がしません。そのあと何故か咳が出ます。」とおっしゃっていました。
物理学科では伝統的に実験装置は自作する傾向にあるらしいです。化学科はあんまりそういう事が無さそうです。加速器でも物理学科では、別に必要が無ければ試料に純度を求めない、化学科は一応純度の高いものを使う。物理学科の人は水の積み方がいい加減で、普通にビームを漏れさせたり、化学科はきっちりと遮蔽する傾向があるのだとか。
あと、日常でも、科学的に安全だとか危険だとか、そう簡単には言えない事が多いです。色々な事を聞かれますが「知りません」「わかりません」という事が殆どです。これを食べたら、使ったら、ブツブツが出来ます、痒くなります、頭が痛くなります、と言う人もいます。安全性を確認されていようが、そうで無かろうが、自分に症状出ているのなら、なるべく遠ざければいいのではと思います。人工香料で症状が出る方は、避けられないので本当につらそうです。きちんとした所に問い合わせをすると、自分で近所の人たちに説明して回る事と、どの成分で反応するかを特定して、それをメーカーに示してくださいと言われたと、おっしゃった方がいました。マイノリティーの症状は、実はみんなの為に出ているのかもしれません。そういう視点を常に持ち続けておくことは大事だと思います。