同級生

私は、若いころに数学科に入りました。そのとき、加工食品ばかりを食べて、咳が止まらなくなったり、疲れが取れなくなったり、謎の体調不良が出てきて、中退してしまいました。その後、とあるおばさまに、食事が大事だと諭されました。また、別のところで、別のおばさまに、食事が大事だと諭されました。そして、また別のところで別のおばさまに、食事が大事だと諭されました。

食事を見直してみたら、咳も止まるし、良くわからない体調不良も消えていくし、再び抽象的な思考が楽しくなっていきました。私は、見ず知らずのお節介な方たちのおかげで、今こうしていられます。そのとき、そのとき、ほっといてくれという感じだったんですけど、おばさんたちの、ものすごい気迫というものがございまして、ちょっとは言われた通りやってみるかという感じにさせてくれました。

皆さんもそうだと思うのですが、この人がいなかったら、首がつながってないな、なんて事はあると思います。そして、それはですね、好きだった人、嫌いに思っていた人、関係無いこともわかります。思い違いで、別れることもありますし、ふとした出会いもあるわけです。

仕事で、化学の学士が必要になって、化学科に通った事があります。研究室に入るとき、化学の面白い話を教えてもらえたし、こちらが再現性を持っているけれど、まだわからない事などを話すと、面白がってくれたり、教えてくれたりしたので、メスバウワー分光法の山田研究室に入ろうと思っていたのですが、急に亡くなられてしまいました。おっさん引き受けてくれるところあるのかなと、心配していましたが、いくつかの研究室が歓迎してくれました。思案いたしましたが、有機合成の研究室に決めました。有機合成は朝から晩までとは聞いていたのですが、妻が仕事をするから、研究室に入っていいよと言ってくれたのでした。

合成するとき、先輩の実験ノートを参考にすることもあるのですが、それを見つけたり、うまくいったのかどうなのかが、わかりにくい事があったので、実験ノートの書式は守りつつ、攻略本を作る気持ちで書いていきました。成功した実験には、目次で、星マークを付けたり、注意書きやコツを、なるべく書くようにしました。講師と先輩達の協力のもと、目的物の新規合成まで辿り着きました。その分子を調べてみたら面白い結果がでました。とりあえずは、こういう結果が出ましたというところで、私は卒業でした。

そこでお世話になった講師は、同じ年齢の方で、今年近畿大学の准教授になられました。歳が同じなのもあって、とてもうれしく思います。先輩も実験はとても上手だったのですが、講師の方は別格で、なんでも爆速でした。エバポレーターも、蒸留も、クロマトグラフィーも、知らない間に終わっているのです。あと、化学の人は、一番プレゼンが凝っています。私がへたくそなパワーポイントを持っていくと、0.5秒ほど吹いて、爆速でプロの資料に変化していくのです。奇麗にするためだけの労力に、時間かけたくないよと、思うのですが、時間がかからないのです。5分でプロの資料になりました。保育園児の絵が五分でラフェロに変わるのです。結果があったら、秒速で論文にしてしまう先生です。私のやった研究も、まだ生きていると言ってくれました。研究室がうまくいくことを願っています。研究室は個性があって、二つとして同じようなものは無いのかもしれないと、思っています。どんな風景になるのかも、興味があります。みんなで、応援しています。

偶然ですが、電磁気学を習った先生も今年、准教授になられました。流体力学、テンソル、ベクトル解析、などを教えてから、特殊相対性理論まで突っ走っていくという、面白い教え方をしてくれていました。若いですが、割と年も近いです。

私も独立いたしましたし、正規になる前の気持ちを勝手に感じてしまいます。今教授をやっている、量子コンピューターの先生の話も、教授になる前に伺っていて、ポストが無いとおっしゃっていたそうなんです。しかし、彼は明らかにその分野では日本一わかっている人ですとは聞いていました。私も、この仕事でご飯が食べられるのかどうか、わからないで始めました。皆さんの研究テーマも、どうなるかわからないで、やっていたはずで、その中でよく、そんな高度なことを思索できるなと思うわけです。歩きながら、ムキになって物理の先生にそのことを聞いたら「物理学者もどっかぶっ飛んでいるところがある」と聞いて即座に納得しました。神楽坂下の交差点を渡りながら、「それだったらわかります」と言いました。みんな、うまくいって嬉しいです。

若いころに、お節介をして助けてくれた方たちも、こちらが少し好転するたびに、喜んでくださいました。その方たちも赤の他人だったんですけど、何故かそうでした。皆さんも、同じだと思います。少しでも良くなると、大喜びしてくれるお節介な方が必ずいるはずです。何らかの要因で、届きにくい事はあったとしてもです。私は今、具体的に、この人も、この人も、この人も、良くなって欲しいと思っている方がいらっしゃいます。また、気にされているならば、こちらの事は気にしなくていいと、伝わっていたらいいなという方もおります。