水素は色々特異な性質を持ちます.サイズが小さいから溶媒効果も出てきますし,水素特有の水素結合なるものもあります.
子どもの頃は水素結合の事を,電気陰性度の大きい原子に共有結合で結びついた水素原子が近傍に位置した,孤立電子対と作る静電的な力で結びつくと習う.しかし,それでは構造,孤立電子対と水素原子,電気陰性度の大きい原子間の結合との直線上での固定された結合を説明できていない.水素結合の定義のようなものは,いくつかはあるらしいが,私が受けた説明だと,分子軌道法での,水素と電気陰性度の大きい原子との,反結合性軌道に孤立電子対が入るからだとされている.それは,正しい考え方の一つだと思う.
水素結合は高等学校までは割と弱いと教えられるが,結構強い.髪に水を付けると水素結合が切れて,乾くと結合が出来る.これが寝癖と言われている.とある方からの話で,ポーラス毛の方にはシスチン結合の働きかけでカールは作れないが,水素結合への働きかけでカールが出るという主張も頂いた.コルテックスの構造が壊れてくると,支配的になる結合が変わるのであろう.また,寝癖を作りにくい髪の毛というのもあるのだろう.水素結合の割合で毛髪の評価も作れるだろうとも考えられる.コルテックスでカラムなどを作れば,その髪がどういう状態,傾向なのかも一目瞭然になると考えられる.
ここは知っている人も多いと思いますが,DNAのハシゴは水素結合で結合している.ほど良い結合で,ハシゴを切って,情報を読み取る事が出来る.また凄い事に,DNAは億年耐えられる記録媒体である.人間はそんな記録媒体を作れていない.また,書き込みエラー,読み取りエラーが非常に少ない.そのエラーの少なさも人間は到底作れていない.数億年持つ記録媒体DNAは凄い.強すぎない,弱すぎないもポイントかも.RNA,DNAはどちらが先かという論争はあったようだが,今はRNAと言われている.RNAの材料になるような化学物質が宇宙や,地球で,生成されていることが分かってきたからだ.彗星からサンプルを持ってきて,それがないか調べているのだとか.また,RNAには触媒機能を担うものがある.これもRNAだけの世界があったと考えられる根拠とされている.ウラシルのメチル化により,不安定なRNAから安定したDNAになったとされる.メチル化により非常に安定性が高まり,数億年持つ記録媒体になった.その性質は,より多くの情報を同時に保持することが出来る.数十数百塩基から,二億四千五百万塩基に容量がアップした.ヒトのような複雑なものも作れるようになったのだ.また,エピゲノムというのも分かってきて,DNA配列だけが遺伝情報でないことも今は知られている.生化学は10年でがらっと教科書が変わります.今もどんどん書き換えられています.場の古典論や電磁気学は全く書き換えられません.すぐに書き換えられるもの,書き換えられないもの,どちらも好きです.
水は異常な物質で,小さい分子なのに異常に,沸点,融点が高い.それはもちろん水素結合があるからと説明される.ここまでは良く知られているが,次のことが知っていたら,凄い.ゆっくり冷やした氷と,急速に冷やした氷は物性が違う.ゆっくり冷やした氷はなかなか溶けない.急速に冷やした氷はすぐに溶けてしまう.ゆっくりと氷を冷やすと酸素原子が最も安定した六方晶の構造の結晶になる.エントロピーが低く,溶けにくくなる.無論お酒は六方晶の氷が美味しいとされる.大気圧下で水が一番美味しいのは4℃とされる.これは良く言われる.4℃が一番密度が高いというのも良く言われる.その理由として,水素結合と運動エネルギーの極値が4℃だと言う事である.4℃から下は水素結合の寄与が大きくなり,かさが増す.4℃を超えると運動エネルギーの寄与が大きくなりかさが増す.
ロケットは水素を充填する.水素を充填するには液化した水素を燃料室に入れる.その作業が大変なので,ロケットを飛ばす前に,固形燃料ではない場合,あの国はロケットの準備をしているとばれる.電子にスピンがあるように,原子核にもスピンがある.水素分子の水素原子は,同じ符号のスピン同士の原子核で出来たものと,異なる符号同士の原子核のものがある.核スピン1/2+1/2=1をオルト水素,1/2-1/2=0をパラ水素という.量子数が違うと禁制で交換しない.大体常温だと3対1で,オルトとパラになっている.(オルトは-1,0,1の状態を取る為)温度を冷やすとパラ水素が安定で,常温の水素をそのまま冷やして,充填して次の日にロケットを飛ばそうとしても,燃料が足りなくなる.オルト水素をそのまま冷やしても,翌日には,パラ水素に組換えが起こって発熱してしまう.だから,触媒を使って,冷やしながらオルト水素をパラ水素に変えて充填している.翌日には満タンの水素が入る.量子化学をかじっていないと意味が分からない所もあるが,ただ水素を冷やしてタンクに入れても,そのままだと発熱してしまって水素が抜けてしまうと言う事である.只冷やしただけではダメだと言う事が面白いのだ.水素の充填を見ると,触媒をかませているのを感じて欲しい.
(ヒューイ無機化学によると直線構造でなければならないという事でも無いと,補足もされている.化学は例外が多いが,インチキというわけではない.理論が先ではなく,現実から合わせた理論が多い.一般化するとすぐ破綻するが,ある特殊条件下では上手く行く.「微分方程式の解がいくつか出ても,その解の中から意味のあるものを選択し,意味を読み取るのはやっぱり,常識が必要なんだよね」との事.)
(化学科は熱力学を良くやる.あれは何をやっているかというと,やっている方達も途中まで気がついていない場合が多いが,エネルギーの流れを勉強している.物理屋さんと違うのは,物質を扱う上で,熱力学的な解釈が化学屋の方が慣れていると傾向にあるという.スタビライザーで綺麗に洗い流せるのは,ギブズエネルギーの変化量での議論で矛盾無く答えられる.構造を壊さないで異物を取り除く,構造を壊さないで目的地に近付いていくというのが楽しい.気分や忖度で色々壊していくのは興味がわきません.)